利休居士が「南方録」に「掛物より第一の道具はなし、客・亭主共ニ茶の湯三昧の一心得道の物也、」おっしゃっている様に、一席に於いて最重要ポイントであり、その日のテーマを決定するものが「掛物」であります。
極端な言い方ですが、このお茶で使う掛物は使用方法によって大きく分けて二つがあります。それは「待合掛」にすべき物と「本席」で使える物の二つに大別してよいでしょう。端的にいって今簡単に手に入る「絵」または「絵のはいいっている物(画讃物)」は一部を除いて「待合掛」といって「本席」すなわち茶席には不向きな物とするのが基本です。
ましてや「何とかセンター」で手に入れた「日の出」や「鶴亀」「高砂」では「第一の道具」にならないと心掛るべきでしょう。後々お話をしますが「侘茶」と「しっみったれ」とは違います。「道具はいつもありあいに」とはいえ、「間に合わせ」ではないのです。「マァ掛物なんてのはウチにある物でいいや」という方、ちょっと待って下さい。そこに書かれている物はどんな掛物ですか、しっかり目的に合った意味合いの分かるものですか。ちょっとした知識で「恥」をかかず、お客に心遣いの出来る「茶湯で使える掛物」を選ぶことが出来るようになるかと思います。
「むかしは絵を掛けて茶の湯をしていた」とおっしゃる方、よくよく当時の会記(カイキ、茶会の道具を記録した物)をご覧下さい。「牧谿」「徐煕」「徽宗」などなど唐絵(カラエ、中国の宋から元時代が中心の絵画)あるいは禅機画といわれる物がほとんど、石州三百箇条に「台子には絵の…」といっているのも、これは全て唐絵、禅機画の類と考えるべきでしょう。