形状(炉の釜、風炉の釜)
まず基本的な釜の形状と種類のお話をして行きましょう。
まず稽古に使うのに炉に用いるのか風炉に用いるのかという問題があります。自宅に炉を切ってあるのでまずは炉釜から、と言う人を除けばほぼ風炉釜から求める事が多いのではないでしょうか。
風炉釜では先に述べた日本で最初に使われ始めたであろう釜の形式、すなわち「切り合せ」があります。
鬼面風炉には平丸釜、真形、朝鮮風炉には真形釜、琉球風炉には田口釜、のかつぎ釜といった決りがあります。
これらは釜に合せた風炉がセットになっているので最初に求められる釜として一番多いように思われますが、流儀により鬼面風炉は「真」にのみ用いるとするところもありますし、切り合わせは火が見えないということで夏場用いる方が良いと考える流儀もあります。
流儀での使用方法をよく調べてからお求めになるのが良いでしょう。
切り合わせの次の時代に現れるのが透木釜です。始めは真形釜を土風炉に乗せ用いたのが始まりでその他鍔釜(平蜘蛛釜など)を乗せたりもしましたが、近世からは専用の風炉用釜が作られるようになり切り合わせと共に「夏場の釜」として用いる事が多いようです。
一番数も多くまた好みなどが作られるようになりその種類は増える一方でもあるのが五徳に乗る風炉釜でしょう。
風炉に直接乗る形式から五徳の発明により様々な釜の形状が作られるようになり殊に利休指導の元に釜を制作した「辻与次郎」など釜師が登場するとその種類は飛躍的に増えます。それ以後釜は職人として名の無いものから作家として名を残す事となります。
前述の切合風炉から分離した「真形釜」は使いやすい物の一つでしょう。
利休形といってよい「利休好の釜」も候補としてあげるとよいでしょう。
ほかに雲龍釜などを代表とする筒釜は釣釜として炉にも用いる事も出来ますので便利な釜の一つです。同様に鶴首釜、細目の富士釜なども用います。
流儀での使用方法を考慮した上で気に入った形をお求めになってよいと思います。
炉には炉の釜
独立した茶室でなくとも茶の間に炉を切って楽しまれる方も増えていますが、炉に風炉の釜を入れてみてもどうも大きさが合わないのでやはり炉用の釜が必要になってきます。
出来れば両方に使えないだろうかと考える人もいらっしゃるかと思います。もっとも彼の「石州公」も「侘びの文」の中で「釜は炉にも風炉にも用うべきを」と述べておられますが先程も述べましたように現在、一般に出回っている風炉用の釜は炉に入れるのには小さ過ぎます。基準としては胴径で八寸位から大きい物を炉に用います。
筒釜は釣釜として炉にも使用できる便利な釜ですが、五徳にすえ炉釜として用るには向きません。後の項でも述べますが炉のサイズは炉縁の外法は一尺四寸ですが実際に火の入る穴の部分の内法は現在の物は一尺四方です。そこに入ってあまり違和感の無い大きさとなると経験的には八寸二分から八寸七分ぐらいかと思います。
やはり炉の釜はたっぷりとお湯の沸く大振りなものがぴったりくるようです。もっとも時代の釜の中には九寸を越えるものもありますが釜の上げ下ろしなども考慮した上お求め下さい。
釜の善し悪し
釜の善し悪しを判断する基準に「形」「肌」「鳴り」があります。
形状が上品で肌合いがよく、湯が沸いたときの音がよい事を指します。「松風」と言う言葉を聴かれるかと思いますがそれを指します。釜を作る人でもどの様な音が鳴るかは想像も出来ないと言うものなのだそうで、時代の釜で湯を沸し洩れの具合や鳴りが確認できるもの以外は掛けてみるまで分らないようです。
釜の手入れ
手入れには古くは中のお湯を掛けながら徐々に冷やして乾かす、とお習いになったでしょうが最終的にきれいな水で洗い流してから乾かす事が肝心です。
殊に古い釜は急激な温度変化に弱いため、冷えた状態で熱いお湯を入れたり、湯を空けた後冷水で直に冷やしたりする事がないよう気を付けて下さい。
ただし新作の釜はこの限りでなく手早く乾かして下さい。いずれの場合も「茶の湯は滾る思い肝要」というように釜を片づけるまではよくお湯が沸いていることが肝心です。箱に仕舞う時は移動する時以外は何も包まず蓋を開けた状態で入れておきます。
何より釜と永く付き合うためには良い鉄を使い、よりよい仕上げで出来たものをちゃんと手入れをして用いる事が第一です。