石州流を学ぶ人のための茶道具基礎知識2 平点前
薄茶平点前は割稽古が済むと次ぎに進む段階で行われます。
臺子からはじまる点前を真行草の「真」の点前であるとすると、もっとも草の点前といえるものであり、最も基本的な点前です。
しかし、道歌の中でも「点前こそ、薄茶にあると聞くものを、粗忽になせし人はあやまり」とあるようにもっともおろそかにできない点前でもあり基本としての薄茶の重要性が語られれています。
お稽古の上でも柄杓や蓋置の扱い「釜」や「水指」が登場して「いよいよお点前が出来るぞ!」といった雰囲気にもなります。釜の湯を沸かす「風炉」や「炉」も必要になってきます。
雰囲気といえば「風炉先屏風」も重要なアイテムの一つでしょう。
『茶事點順』では炉の点前の説明から始まっています。その項目が進み棚点前も炉での内容となっています。
現在の稽古では多く「風炉」を注し居に教授していますが、江戸時代は「炉」に重きを置いていたことが窺える事項です。
近年は茶会が中心となり、季節感を忘れた稽古をすることも多く一年中、風炉の点前しか教えない稽古場後あることは情けない次第です。
ともあれ、一年の少なくとも半年は風炉の季節でもあり、『手引きの糸』三十三年版などでは「(四畳)半構風炉薄茶平手前」から始まることもあり、『茶事點順』には記載のない、風炉平手前から説明を始めることとします。
「薄茶点前」は、四畳半構だけでなく、台目構や小間の席でも行うことが出来ますが、まずは四畳半構(八畳など広間を含む)で行うものを習得します。
四畳半構(広間)は点前座と踏込畳が別の茶室です。必ず、「踏込畳」と「点前畳」を分けてお稽古をしましょう。
古書によると、濃茶を主と考え、それに対して薄茶は「重ねて進める茶」の様な意味合いと考えています。また、薄茶と濃茶は、点前や飲み方においてもおおよそ同様ですが、濃茶に比べるとやや、簡略化した物といえるとも述べています。
ただし、すべての点前の基本となる内容が含まれています。「点前とは 薄茶にあると聞くものを 粗相になせし 人は誤り」と道歌にあるように、初めの段階から正確な伝授を行いたいものです。
たとえ点前、免状が進んだ後からでも、たびたび原点に帰り「稽古とは一より習い十を知り 十より帰る元のその一」と入門したばかりの人であれ、教授者であれ再度身につけたいものです。
そこで日頃省略しがちな、水屋の準備や、点前までの過程も、『茶事點順』や『手引きの糸』には多く記載されています。
初めの準備、後始末が稽古にとって何より大切なものと心掛けましょう。
1. 釜
特段決まりはありませんが、あまり特殊な物は最初揃えるには不向きです。
歴史上、古い茶釜を産した芦屋釜の基本である「真形釜」や「利休好の釜」流祖「片桐石州公好の釜」等から揃えられると良いでしょう。
近年造られた釜では、炉・風炉の釜の共用は基本的には出来ないと考えましょう。
片桐石州公はわびの文の中で「炉風炉用(もちふ)べきを」とされていますが、炉用の釜は風炉に用いるには、かなり大きめの風炉が必要で扱いに不便です。
ただし、筒釜(または富士釜、棗釜などを含む)は炉の釣釜としても使える釜になります。
炉には炉に向く大きさのものがお薦めします。
→ 茶道具一覧(釜)
2. 風炉
「風炉」も特段決まりはありませんが、「鬼面風炉釜」は本来「臺子用風炉釜」で「侘茶の対極」に属する道具の一つですので運びの風炉釜としては用いないのが理想的です。用いて間違いということはありませんが、それしかなかった時代ではありませんので、ずうっと使えるものということではありません。
点前中にしばしば出てくる「釻扱い」は鬼面などの釻がついた風炉での扱いであり、「石州流は釻付のある風炉を使う」事は決して、決まりではありません。
「鬼面風炉」があれば石州は大丈夫。ではないのです。鬼面風炉しか使わないと噸違いをされている形が多いのも悲しい事実。石州公の御好にも多くの風炉用の釜が存在します、。石州公の師匠、桑山宗仙の師は「千道安」道安風炉は「土風炉」です。これに釜を五徳に据えて用います。
出来れば「土風炉」が侘茶、運び点の風炉として用いるべきものです。
「片桐石州公好 土風炉」も伝わっています。勿論、利休好の「利休面取風炉(土)」や「雲龍風炉(土)」また、片桐石州公に繋がる茶人、利休の実子で石州公の師匠、桑山宗仙の師「千道安」の好んだ「道安風炉(土)」は使い易くもあり、ぜひ揃えておきたい風炉の一つです。いずれも「土風炉」として好まれています。
形を摸した「唐銅風炉」は代用品です。風炉を据える小板は「利休形」を用いましょう。
「灰形」を風炉に合わせ、仕上げておきます。
3. 小板
→ 茶道具一覧(小板)
4. 炉・炉縁
5. 水指
「水指」には染付、瑞祥、青磁、砂張、唐銅など「真の水指」は用いません。
これらは棚物、長板に用いる物で畳に直接置く、侘茶である平点前には不釣り合いです。
「行、草」に当たる「施釉国焼」の水指がよいでしょう。
運び点(水指が棚や長板などに載らない点前)ですから備前焼信楽焼や仁清写乾山写など京焼など「草」格の水指でも良いでしょうが、後々「棚点前」などのことを考えまずは、行格の水指として「瀬戸一重口水指」は基本の水指として揃えておくことをお勧めします。ほかに「高取」「唐津」なども候補として良いでしょう。
→ 茶道具一覧(水指)
「茶碗」
「濃茶茶碗」に用いるには「高麗茶碗」から「無地の国焼(萩焼、唐津焼またはそれに準ずる物(江戸時代までに造られた朝日焼、出雲焼など大ぶりで無地の茶碗)」少し侘びて「黒樂茶碗」ぐらいが適当でしょう。これらの茶碗は薄茶に用いてもかまいません。
「薄茶茶碗」では特段の決まりがありませんが季節に合わせた茶碗を用いるのも良いでしょうが、「樂茶盌」は基本の茶碗です。
「絵唐津」や「前記の濃茶茶碗に属さない無地の茶碗」「志野」「織部」「瀬戸」「絵や文字の入った物」「数印茶碗」「色絵(仁清写、乾山写)の茶碗」なども揃えておくと良いでしょう。
「特殊な形の物(平、筒、馬上杯、片口など)は薄茶茶碗として用います。これらの物は濃茶に用いない方がよいでしょう。
「薄茶器」
同様に茶入、薄茶器、も趣向にあった物であっても良いでしょう。
棗であれば「中棗」が基本の物として用いることが一般的です。扱いとして「平棗」や「四滴茶入」なども揃えておくとよいでしょう。蒔絵の物などもよいのですが、しっかりした無地の中棗をまずお求めになることをお勧めします。
「片桐石州公好」にも「河太郎棗」「次郎棗」「七つ菊棗」「ぶりぶり棗」等がありこれらを含み石州公選定の「切り型」に「三十一器」があります。
「石州三十一器」
上、 十種=「松笠棗」「大丸棗」「丸棗」「小丸棗」「古代写丸棗」「平丸棗」「丸茶桶」
「朱雪吹」「糸目雪吹」「川太郎棗」
中、十一種=「古代朱面雪吹」「婦久羅棗(尻脹棗)」「寸切茶桶」「糸目雪吹」「古代雪吹」
「切立中次」「武利〃〃中次 小形」「面小棗」「丸棗」「丸中棗」
下、 十種=「大中次」「菊平棗(七つ菊棗)」「古代朱面雪吹」「長棗」「武利〃〃中次 大形」 「一文字棗」「面大雪吹」「面中次」「雪吹中次」「次郎棗(小形)」「次郎棗(大形)」
が挙げられています。
「茶杓」
「竹の中節茶杓」を用いるのは利休以来の常識といえるでしょう。
茶事や茶会では節の数が多い物を用いることもあります。その際はいずれにしても「銘のある茶杓」を用います。
点前の最後に、茶杓の拝見を行います。拝見物を返した時には主客問答があり、作者、銘を尋ねます。
稽古であれば「架空の茶杓」としてこれに答えてもよいでしょう。
「茶巾」「手巾」
石州流では点前で用いる「茶巾」も炭点前で用いる「手巾」も「保田織の麻」で作られた物を用います。
「茶筅」
石州流の物として「白糸」でかがった白竹の物を用います。
「柄杓」
石州流では太鼓胴と呼ばれる流儀の物をもちいます。
「建水」
建水は特別決まりはありませんが「唐銅、砂張」のから揃えると良いでしょう。
「陶磁器製」「塗りの物」などでもよいでしょうが、まずは唐銅をお薦めします。
木地曲の建水は本来使用方法や道具組に厳格さを求められる物で主に濃茶で用います。
「蓋置」
最も侘びた蓋置である「青竹の引切」または「白竹に花押」のある物が運点に用いるものとして相応しいでしょう。
稽古では何もない白竹でもかまいません。そのほかの茶道具に関しては炉・風炉の違いがある物以外は共用して良いでしょう。
※お菓子を盛り込む「菓子器」、薄茶は東を原則とします。器もあると良いでしょう。
「干菓子器」
薄茶で用いる菓子はおおむね「干菓子」を用います。干菓子器の多くは塗り物や木地の盆が用いられます。稽古の場合でも濃茶用の「主菓子」と薄茶用の「干菓子」の二種を用意するよう心がけましょう。
※客に「おくつろぎを」のサインが煙草盆です。
煙草を吸いなさい、ではなく現代では無用のもの思われるかもしれませんが、薄茶席では必需品です。
「煙草盆」
稽古の際でも、薄茶の場合は煙草盆の用意も用意して火入など準備しておきましょう。煙草盆は茶事、茶会に不可欠な物なので一層勉強になります。
片桐石州公好煙草盆も多くあります。