石州流を学ぶ人のための茶道具基礎知識3 濃茶点前(平濃茶)
解 説
この濃茶点前は薄茶点前が一通り済むと次ぎの段階で行う事が理想です。
従来、長板などの後に習得することが多いのですが、「茶事」を基準と考えれば複雑な点前や特殊な点前の前に濃茶や炭手前を教授する方が合理的です。
「濃茶点前」は、四畳半構だけでなく、台目構や小間の席でも行うことが出来ますが、まずは四畳半構(八畳など広間を含む)で行うものを習得します。四畳半構(広間)は点前座と踏込畳が別の茶室です。必ず、「踏込畳」と「点前畳」を分けてお稽古をしましょう。
濃茶点前も薄茶同様『茶事点順』では「炉点前」から、説いていることが、注目されます。
上巻の「茶の湯大概の覺」では茶事の手順を記述していますが、これも「炉」での手順が語られています。当時茶湯の中心は「炉」の時期にあったのかもしれません。それが分かると解ける謎も多くあります。重ねて、文章での解説は省かれています。
茶事の構成の中で最も中心となるのが「濃茶点前」です。茶事の折、招待状を出す文面には「御茶一服差し上げたい」旨を記しますが,この「御茶一服」は濃茶を指しています。
稽古でもこの流れに沿い、濃茶には「主菓子」を必ず用意しましょう。「主菓子」は「懐石料理」の締めくくりに出されるもので大寄茶会茶会などでは略式で「前席の象徴」として用いられていると考えましょう。
茶事では主菓子を食べ終わると「菓子器」を「お詰」が片づけ「中立」をし露地から腰掛け待合いに進み濃茶の準備を待つこととなります。このこともきちんと知っておきましょう。
道具組
ここでも、点前順序は省き、個々の点前は何を目的として、また、どのような道具組で点前をするか説明をしていきます。
揃える道具も利休形を基本とし、「流祖片桐石州公好」を求めるようにしましょう。ただし、道歌の中でも「点前こそ、薄茶にあると聞くものを、粗忽になせし人はあやまり」とあるようにもっともおろそかにできない点前でもあります。
1. 茶入
点前の道具でやはり第一に上げなければならないのは「茶入」でしょう。
まずはお稽古用に。
①お稽古の茶入を求める方法としては、本歌をよおっく理解した上で「写」の茶入を求める。②和物の始めである瀬戸の手分けを重々理解し現代作家の瀬戸茶入を求める。
③遠州の指導した窯である遠州七窯(朝日焼、高取焼、上野焼、赤膚焼、古曾部、志土呂、膳所)の現代作家、或は近世の物を求める。
と言った手段が有ります。
買ってはいけない。
避けなくてはいけないのは何々の窯と表現していいか分からないような作品や、見立てに当たるものなどです。お稽古には、そのお稽古に相応しいものから揃えるのが一番です。
最近は陶芸教室が盛んで趣味でされる方も多いようです。壺(茶入本体)だけお持ちになって「これに合う、仕覆と蓋を下さい。蓋はプラスチックでいいです。」といって凝られる方がいらっしゃいます。
仕覆は形の一定な棗などと違い、一個一個違いますから既製品はありません。同じ理由で「プラスチックの蓋」は形で作った茶入にのみ添えることが出来ます。すなわち蓋に合わせて壺を作っているからです。結果、それぞれ別注になるので「お稽古ものの茶入」を買うより高く付いてしまいます。
仕覆も選ぶ。
添える仕覆にしても本歌に添ったものや「名物裂」のはっきりした写しの物を選ぶべきかと思います。着物もその中身の品格を表すものになるからです。
蓋を見る。
蓋も出来るだけ象牙の物をお薦めします。永年の間に変色して風格が加わるのが特徴です。
お手入れ。
備前焼信楽など土物の茶入など使い終わったら必ず湯通しして洗いお茶を残さないようにしましょう。古いお茶が残っていてはせっかくのお濃茶も台無しです。
中に釉ある茶入は日頃ティッシュで拭く程度で充分ですが数箇月使ったら良く搾った付近で丁寧に外を拭いて下さい。綺麗になる上、思いのほか茶入のすべりが良くなります。
2. 茶碗
「濃茶茶碗」に用いるには「高麗茶碗」から「無地の国焼(萩焼、唐津焼またはそれに準ずる物(江戸時代までに造られた朝日焼、出雲など大ぶりで無地の茶碗)」少し侘びて「黒樂茶碗」ぐらいが適当でしょう。これらの茶碗は薄茶に用いてもかまいませんのでまずお持ちなる茶碗としてもお薦めします。
3. 茶杓
前述の「薄茶」点前の時に用いるものとの違いは基本的にはありません。一部では濃茶の稽古に象牙の茶杓を用いるところがあり、濃茶は象牙などと勘違いする人々がいる始末。古い会記などを調べ、深く考察すべきところかと思いますが、石州公は象牙の茶杓を濃茶で使用しているわけではありません。この歴史的事実は、如何に考えますか。
4. 主菓子器
本来濃茶では主菓子を縁高で出すことを正則とし、銘々盆が代用となります。また時と場合によって焼物(陶磁器)が主菓子器となることも少なくありません。
現在茶会などで見られる焼物の主菓子器では食籠・深鉢が主で、ときには平鉢を用いますが通常手鉢は用いません。いずれにしてもほとんどが懐石用の焼物鉢を転用していることになります。
茶湯に用いられる菓子を盛る菓子器の中で、最も格式の高い器はどの流儀においても「縁高」です。
内外共に黒塗の折敷を五客分一組みにして重ね、上の一重のみ総蓋が付けられます。
写真が正式な利休形の黒塗縁高で、これに菓子を入れるのに五つ重ねの最も下の箱に正客用一個、あとは客の人数に応じて入れられ、蓋の上に「黒文字の楊枝」を人数分を添えて出します